11月25日、六本木のMercedes me TokyoにてPOLA×Mercedes Benzのイベントとしてアートディレクターの千原徹也さんが登壇しました。
POLA×Mercedes Benzは「ありのままの自分でいたい」と願う女性たちを支えるブランドいうところに共通点があり、トークテーマは「自分なりの〝かわいい〟を表現する」。
その中で千原さんは〝かわいい〟の秘密について、そして女性の多様性についてお話になりました。
れもんらいふの新女子力。
千原
僕の周りはほとんど女性で。
会社(れもんらいふ)の中でいうと、デザイナー6人のうち5人が女性。
れもんらいふのデザインは女の子が「おもしろい」と思えるようなものを求められることが多いので、女の子が活躍する場になると思っています。
デザインの仕事って体力勝負みたいなところがあって。
頑張って徹夜して期日までに仕上げたり。
女性にとっては体力的になかなか大変な仕事で、デザイナーが男向きな職業になっている現状はそこに理由があるんですね。
れもんらいふは「どう女性たちでそこを乗り切りながら、〝おもしろい〟とか〝かわいい〟というところを見つけていくのか」ということが重要だと思っています。
僕、この間、Numéro TOKYOの軍地彩弓さんというエディターの方に〝新女子力〟という言葉をいただいたんですね。
「れもんらいふって新女子力でやっているよね」って。
女子力という言葉って男目線からすると「女の子の力」という風に思っていたのですが、実はそうではなく。
軍地さん曰く、「女子力って結局、お茶をサッと出せるとか、一歩後ろを歩けるとか、結局男のためにある言葉だよね」って。
言葉では「女の子の力」っていう風になっているけど、それは〝男を立てるための言葉〟で、良い響きはあるけれど実は女性を立てる言葉ではなく、ふたを開ければ男社会を立てているんですよね。
新女子力というのは、「女性が自分のアイデンティティで、自分の主張をして、自分の力で何かをやっていこう」ということ。
そこに男性はあまり関係なくて、女の子が「自分のフィールドで自分の好きなことをやるんだ」というニュアンスがあって。
「あ、うちはそういうことを目指せばいいのかな」って、嬉しい気持ちになりました。
そういう風にやっていけたらねって。
れもんらいふは、みんなが「かわいい」とか「この女優さんいいよね」とか、そういう会話から仕事がはじまったりするので、そのノリが生まれて、みんなが盛り上がってデザインが形成されていくんですね。
男性より女性の方が活躍できる職場かもしれませんねww
男社会を変えるには構造から。
戦後社会自体が何も考えず〝男性が働く〟というモノの作り方をしてきたので、「社会自体が男のもの」という感じがずっと続いてきましたよね。
今の世の中は「そうじゃないよ」って言っているけど、システムを何十年もかけて作ってきた分、まだそこから抜けきれないんですよ。
グラフィックデザインだってアメリカだと一つの仕事に対して依頼が来るのが半年前とかなんですね。
だから、余裕を持ってゆっくりと準備をはじめることができる───つまりみんなが幸せな状態でクリエイティブに向き合えるんですね。
お金もちゃんと半年分出しますっていう形で業界が動いているのですが、日本はまだそうじゃない。
戦争に負けたっていうのが大きくて「誰よりも働いて豊かにしよう」という姿勢できたので、その状態が続いているんだと思うんです。
当たり前のように期日の一ヵ月前とかに「この広告作ってください」という依頼がきて、そうなると来週にはアイディア出しで、再来週には撮影で、その翌週にはデザインを仕上げなきゃいけない。
結果的にデザイナーたちは徹夜せざるを得ないんですよ。
そうなると「そもそも男しかできないよね」って。
構造自体がそうなっているからなかなか抜け出せない。
れもんらいふは「それをどう一週間期限を延ばしてもらうか」とか「そういう仕事は断っていこう」とか、それとも「女の子の価値観としてもっとおもしろく仕上げていこう」とか。
そいうことを常に考えながらやっています。
〝かわいい〟の力。
「かわいいと変と新しいをまぜるとれもんになる。」というのは小藥元さんというコピーライターの方がつけてくれたんですね。
れもんらいふをイメージして、こういうキャッチコピーがいいんじゃないかって。
これが「すごくぴったりだな」と思っていて。
かわいいモデルがいて、そこに変なデザインを混ぜて、新しいものを作っていこうというのが〝れもんらいふ〟なので。
実は一度個展をやった時につけてくれたのですが、その後ずっと会社として使っています。
個展のキャッチコピーが会社のキャッチコピーになった、という。
広告の仕事をやっていると、〝本格的〟という言葉をすごく言われるんですよね。
「プロなんだし、どこまで本格的なものを作れるのか」とか。
あと〝美しい〟という感覚。
美しいもの=デザインというか、そういう風なことを求められることが多く、それは〝抜けがいい〟という言葉で表現されたりするのですが。
全てを文字で埋め尽くすのではなく、いかに空間をうまく使って表現するか、という。
広告としての正しさを、そのような要素で教わってくるのですが。
意外と美しいデザインって、人と距離があるんですよね。
昨日Numéro TOKYOの編集長の田中杏子さんと対談したのですが、おしゃれ過ぎると「私とは関係ないわ」とか、美し過ぎるものに対して「…ちょっと無理無理」みたいな読者の反応があるという話になって。
僕もやっぱりイケメンとかいると「しゃべりたくないな」とかあるしw
実は話してみたらとてもいい人だったりすることはよくあるんですけど。
「あ、わたしとは関係ないな」
美し過ぎるものに対して、世の中の少なくない人はこういう反応を持つんです。
デザインにも同じことが言えるんです。
僕はそこに〝かわいい〟を足すと、身近なものになるんじゃないかな、と思っていて。
「かわいい」という言葉って、単純で、ボキャブラリーがない時に出がちじゃないですか?
でも一番素直に出る言葉だと僕は思うんです。
昔、僕が20代前半の時に付き合っていた人がいて、雑貨屋で「これ、かわいい」って言ったら「〝かわいい〟ばかりで表現するの、やめてくれない?」って言われたんですよ。
会場www
「もう少し深みのあるコメントないの?」って。
それね、20年以上前のことなんですけど今でも僕の胸に刺さっているんですよね。
「かわいい」って口にする前にちょっとピクッてなるというか。
でもね、プレゼンテーションする時でも「こういう広告です」っていうのを見せた時に、そこにいる人たちが「かわいい」って言ったら「伝わったのかな」って思えるんですよ。
全てを研ぎ澄まして繊細に作っていくことも大事なんだけど、それを身近なものにしていかないと、商品にしても広告にしてもなかなか人の気持ちの中に入り込む手前で終わっちゃうなって。
人と商品を繋げるツールが〝かわいい〟なのかなって。
une nana cool(ウンナナクール)さんの広告なんですけど。
コピーは小説家の川上未映子さんが書いていて、写真は瀧本幹也さんというフォトグラファーの方が撮ってくれました。
そこまでだと美しい広告になっちゃうんだけど、そこにいわゆるアイドルという存在をモデルにしました。
彼女は伊藤万理華さんという元乃木坂46の女の子で。
〝会えるアイドル〟というか、購買者と近い存在のかわいい子が広告になることによって感想が言いやすくなるんですね。
これが例えば外国人モデルでめちゃめちゃカッコいいだけの広告だと、話題にしづらい。
彼女を広告に使うことによって「あれって乃木坂の子だよね」「顔隠れているけどそうらしいね」とか。
すごく身近な感想がストレートに入ってくる。
先ほどの話を具現化した広告です。
〝れもんらいふ〟の魅力がよく伝わるお話でした。
女の子の感性や行動力が存分に発揮できる場所であり、そこで生まれたアートワークが人の心をハッピーにさせる。
〝かわいい〟には人類の幸福度を底上げする力があるのかもしれません。
こちらも合わせてお読みください→《千原徹也=織部論》
かわいいの秘密をもう少し掘り下げて書いています。
そして最後に、参加者からの質問に答える千原さんが印象的でした。
「最近、かわいいと思った人は誰ですか?」という質問で、この答えが千原さんの醸す雰囲気を端的に説明しているような気がします。
誰にでも分かる言葉で、誰にでも分かるはやさで、誰にでも分かる表現で。
言葉はシンプルに向かうのですが、紡がれた空気はあたたかい。
Q.最近かわいいと思ったこと
千原
先日、ダライ・ラマさんが来日されていて、その講演を見に行きました。
彼は83歳なんですね。
「おじいちゃんはかわいいんだな」って思いました。
会場www
そして、「かわいいおじいちゃんにならないとな」とも思ったんです。
頭の固いおじいちゃんになっちゃうと誰からも好かれないよなって。
だからかわいく歳をとりたいと思います。
若い時は「無口な感じがかっこいいね」とかでいいと思うんですけど、おじいちゃんになったらおしゃべりになって空気読めないくらいの方がかわいいんじゃないかなって。
あ、ダライ・ラマさんが空気読めないっていうワケじゃないんですよ。
会場www
相当空気読んで生きていらっしゃる方ですからw
そういうのが「いいなぁ」と思いましたね。
まだまだお話を聴いていたい、そんな時間でした。
「明日もがんばろう」
千原さんは、読者にそう思わせてくれる人です。
≪千原徹也≫
デザインオフィス「株式会社れもんらいふ」代表。広告、ファッションブランディング、CDジャケット、装丁、雑誌エディトリアル、WEB、映像など、デザインするジャンルは様々。京都「れもんらいふデザイン塾」の開催、東京応援ロゴ「キストーキョー」デザインなどグラフィックの世界だけでなく活動の幅を広げている。
最近では「勝手にサザンDAY」の発案、運営などデザイン以外のプロジェクトも手掛ける。