さてさて、今回もまた『千原さんのおはなし』と題し、塾長の千原徹也さんにゲスト講師との関係性や講義の感想をお伺いし、クリエイティブについてのヒントを掘り起こしていきたいと思います。
毎回、講義の終わりに千原さんにインタビューをしています。
千原さんのフィルターを通すことで、何でもない景色に輝きが増していきます。
つまり、千原さんの言葉(解釈)によって、うっかり見過ごしていたものが輝きはじめる。
僕たちと全く同じモノを見ていたとしても、感じ方や引っかかる点が違います。
総じて言えることは「おもしろい人は、受け止め方もおもしろい」ということです。
〈秋山具義さん〉
嶋津
第5回ゲスト講師の秋山具義さんの回を振り返っていかがでしたでしょうか?
千原
具義さんは〝プレゼンのプロ〟みたいな方で、僕も何度かお話を聴いているのですがやっぱり上手だなって思いますよね。
仕事を長く続けてこられた方というのは、〝人〟としての魅力が高くて。
〝みかんアート〟や〝寿司100回チャレンジ(2018年中に寿司を100回食べる企画)〟というのは、仕事ではないので別にやらなくても良いことですよね。
でも、魅力がある人というのはみなさん仕事ではない所でおもしろいことをやっていて。
それって、日々おもしろいことをやらないと作品に翳りが出る───つまり、仕事とは関係なく日常的におもしろいことをすることでクリエーションに瑞々しさを与えているのだと思います。
嶋津
具義さんとの出会いはいつ頃でしょうか?
千原
具体的には覚えていないんですw
同業なので一緒に仕事をすることはなくて。
印象的なのはZoffの社長さんが開いた食事会の時。
そこで初めてじっくり話しました。
印象は「とても話しやすい方だなぁ」と。
先輩面もしないし、人のことも悪く言わないし、僕のことを含めてねw
僕って、グラフィックデザイナーの中では特殊な立ち位置にいたりするのだけど「いいんじゃない?千原君の好きにやれば」という感じで。
そのスタンスも含めて、僕は具義さんのことが好きですね。
〈高平哲郎さん〉
嶋津
第6回は演出家の高平哲郎さんの講義でした。
千原
高平さんの回はすごくおもしろかったですね。
僕自身も子どもの時に最初にエンターテイメントに接したがテレビだったので。
テレビの世界に憧れがあったし、当時のあの世界を作っていた人の話を聴くことができることってなかなかないじゃないですか。
赤塚不二夫さんとの繋がりがあり、タモリさんたちとも仲が良くて、共に色んなクリエイティブを考えてきた方です。
デザインという一つのジャンルに特化せずに、マンガから、お笑いから、演出から、何から何までやってきた人の話は何もかもがおもしろかったですね。
嶋津
千原さんのお仕事や興味は多岐に渡っていますので〝憧れ〟と言っても一つには集約できないと思うのですが、高平さんの作った世界は千原さんにとって数ある憧れの世界の一つだった、と。
千原
そうですね。
「あの世界に行きたかった」というのはあります。
赤塚不二夫さんは生きているだけで───人生そのものがギャグという。
タモリさんという存在も、赤塚不二夫のギャグの一つだろうし、それらを形成する上で必要だった人物が高平さんだったりするので。
時代が時代ならば僕もあのグループに入りたかったですね。
それぞれが個性を生かしたグループで。
個性を生かせる組織というのは理想的だし、何より楽しいですよね。
〈チャラン・ポ・ランタン〉
嶋津
ゲスト講師の方のお話を傾聴するというのが、講義の基本にあるわけですが。
実は僕は千原さんとゲスト講師の方とのトークセッションが好きで。
千原さんの視点で質問を投げかけたり、「あ、トップクリエイターの方ってこういう点をおもしろがるんだ」という発見があって。
それって事前に用意したプレゼンだけでは気付かないことだったり、会話の中ではじめて生まれてくるものですよね。
そのことによりゲスト講師にも新たな発見があって。
それが顕著に現れたのが第7回のチャラン・ポ・ランタンさんの回だったように思います。
千原
今までにない回でしたね。
トークだけじゃなくその中で音楽の演奏があったりして───特別授業というような。
クリエイティブの裏側を観るだけじゃなく、〝エンターテイメントそのものにも触れる〟という新鮮な回でした。
嶋津
千原さんが小春さんももさんの中に入って、3人でトークするというのもおもしろかったです。
終始3人で話しながら千原さんが話を引き出したり、展開させたりすることで今までにないチャラン・ポ・ランタンさんの顔が見れた気がします。
千原
基本的に彼女たちも2人で喋るということしかないと思うんですね。
そこにもう一人誰か別の人間が入って、回しながらインタビューされるというのも2人にとっても珍しい体験だったのかもしれません。
嶋津
すごく素敵な化学変化が起きていたように思います。
千原
そうですよね。
チャラン・ポ・ランタンとして舞台に立っている数が相当多いので、おそらく2人のトークというのは既に出来上がっていると思うんですね。
そこに異物が入ると、おもしろい話だけではなく時に真面目な話になったり、色んな方向に行ける。
〈小林直己さん〉
嶋津
第8回のEXILE/三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEのメンバーの小林直己さんの回はいかがでしょう?
千原
エンターテインメントの社会に生きている人って、表の顔と裏の顔がありますよね。
つまり、光の当たる場所でお客さんに楽しんでもらうところと、その裏側で色々な働きかけをしているところと。
僕は、その裏の顔を世の中の人にもっと知ってもらえたらなぁと思うんですね。
それこそジャニーズさんにしても、AKBだって、みんなの前に立っているところは華やかだけど、意外と裏では驚くほどストイックな作業をしていたり。
僕たちと同じように会議をしていたりもする。
その顔を知ってもらいたいという意味では直己さんはぴったりでした。
とても分かりやすく、丁寧にお話になるので、普段からああいうことをやっているんだろうなって。
嶋津
エンターテイナーでありながら、とても論理的で知的な印象がありました。
れもんらいふデザイン塾は、表の方と裏の方が良いバランスで出演されていらっしゃいますが、その辺りのバランスも考慮したカリキュラムなのでしょうか?
千原
そうですね。
実は裏方の人のトークショーって結構どこでも聴くことができるんですね。
でも表に出る方の話はなかなか聴けない。
歌手は歌を歌うところ、俳優さんや女優さんじゃ映画や舞台がメインですよね。
たまに番宣用のインタビューはあるけど、なかなか生で裏側の話を聴くことができる場所ってない。
それは表の活動が中心になるほど、その場所はなくなってきますよね。
そういった話を聴くことができるのも、このデザイン塾のおもしろさだと思っています。
話す力、引き出す力。
嶋津
先日、千原さんのトークショー(〝かわいい〟と女子力)を拝見させていただきました。
この表現、塾生のみなさんには伝わると思うのですが、千原さん独特の〝自由な空気感〟で進められてとても心地良かったです。
あのトークショーはかなりおもしろい内容でした。
千原
あれ良かったですよね。
嶋津
トークショー終わりに「今日の話、とてもよかったです」と伝えに行くと、「意外に良かったよね」という千原さんの他人事のようなリアクションが新鮮だったのですがw
話の内容は事前に決めて臨まれるのですか?
千原
特に決めないですね。
嶋津
その時のMCやゲスト陣との対話の中でお話する、という。
千原
そうですね。
このデザイン塾を含めて年間30~50回くらいは人前で話したりしていて。
それに加えて記者さんのインタビューもあったりする。
だから引き出しが常に20個くらいあるんですよ。
それを、その日与えられたキーワードに対して、いくつか取り出して喋る。
そこでまた新しい話が生まれる。
例えば、どこかで話したことのある話と、最近思っていることを混ぜると違った領域にテーマが飛んだりする。
すると「引き出しが一つ増えました」ということになる。
だいぶん慣れましたね、何も決めなくとも乗り切るということにw
講義を重ねるごとに、またインタビューを重ねるごとに、千原さんの思考が明瞭になっている印象です。
その理由は、常に自身の哲学と照らし合わせて、そこで感じたことを柔軟に取り入れてご自身をアップデートされている点にあります。
もちろん講義以外の部分で遥かに膨大な量のインプットやチャレンジがあって千原さんの哲学は形成されているのですが。
毎回の講義で、ゲスト講師の言葉や経験を自身の哲学の補強や説得力に換えている。
これらのインタビューを通して〝学び方〟も学ぶことができるという発見がありました。
「おもしろい人は、受け止め方もおもしろい」
おもしろい受け止め方は、次なるクリエイティブへの足がかりとなります。
僕の文章も、れもんらいふデザイン塾を受けていない方のための記事だけではなく、講義を受けた塾生や登壇されたゲスト講師の方にとって新しい発見に繋がるものであれば、これほど嬉しいことはありません。
そのような記事作りを心掛けたいと思います。
4期の講義も折り返し地点。
さて、どのような授業が繰り広げられるのでしょうか?