読む「れもんらいふデザイン塾」vol.1

読む「れもんらいふデザイン塾」vol.1

第4期を迎えた、れもんらいふデザイン塾。
は第一線で活躍する豪華クリエイター陣をゲスト講師に迎え、実在する社会課題をデザインで解決する力を養う。
下は高校一年生から上は50代の経営者まで、幅広い世代の、様々な職種の計55名が塾生となり参加した。

ゲストは千原会からヒロ杉山、伊藤弘、谷川じゅんじの三名。
第一線で活躍するクリエイターが三人、一人ずつ話を聴かなければもったいないほどの贅沢な時間。

​※千原会…千原徹也を幹事とした集まりでメンバーは千原徹也、ヒロ杉山、伊藤弘、谷川じゅんじ、エドツワキの五人。3ヵ月~半年に食事会を開く。

講義は講師陣の用意した資料を元に進められていく。

《ヒロ杉山》
NMB48のCDジャケットのアートディレクション

《伊藤弘》
ディック・ブルーナの展覧会のクリエーション

《谷川じゅんじ》
VOGUE FASHION’S NIGHT OUT(F.N.O)でのインスタレーション

《千原徹也》
勝手にサザンDAYのドキュメンタリーの映像作品

それぞれの仕事からクリエイターたちのデザイン思考哲学が垣間見える。
そして、そこから即興的に紡がれる彼らの対話はまさに〝クリエイティブの原液〟だ。

それでは、その講義のエッセンスを少しだけ。
テーマは《型・テイスト・隠し味》───

デザインの本質

〈伊藤弘〉

伊藤
展覧会だと、よく僕らみたいなグラフィックのクリエイターは〝アーティスト〟をテーマに作品を作らなきゃいけないことがあって。
こういう展覧会って大抵、僕たち一人だけじゃなく、複数のチームで参加するじゃないですか?
結局、ブッキングされるいくつかのチームの中で目立たないといけない。
こういうところでは地味にやっていたらダメで。
〝いかに変なことをやるか〟みたいな───つまり、目立つことが大切で。

〝自分たちらしさ〟みたいなことがそこには出てくるので、そこがとても重要になってきますよね。

谷川
昔ね、内田繁先生(インテリアデザイナー)と一緒に仕事をしたことがあって。
その時に屋外で椅子の展覧会があった。

展示ブースを、90×1800㎝というサイズで区画していくんですね。
内田先生がデザインされて全部で100近いブースができた。
そこにデザイナーさんがそれぞれ、色んな作品をつくって展示しているんだけど、大抵の人は90×1800㎝の中に収まる感じでバーっと並べるんですよ。
その中で、一つだけ飛び抜けて高く、しかもその頂点にランプがついている作品があって。
それが、内田先生が出展された椅子だったんですけどww

〈谷川じゅんじ〉

当時僕はJTQをはじめる前だったんですけど、「デザインって何なんだ?」っていうのをその時に強烈に教えられた気がします。
自分で枠を作ったにも関わらず、自分がその枠を破る。 
ただ、よくよくルールブックを読んでみるとそれがダメとは書いていないww

「あ、デザインってカタチの話だけでなく関係もデザインなんだ」って。

内田先生のアプローチに影響を受けた方は多かった。
次の年からみんなの出展作品の傾向変わりましたもん。

みんなニョキニョキになっちゃってww
で、逆に誰も目立たないという。

ヒロ
僕、今イラストレーション ウェーブというイラストレーター222人を集める展覧会を企画しているんですよ。
出展条件として一人一点作品を提出してもらうんですけど、その文面の中に「サイズは自由」って記載されているんですね。
でもね、大半の方はみんなA3サイズ位で出してくるんですよ。

みんな〝イラストレーションの概念〟に何となくとらわれてしまって。
イラストレーションの展覧会でみなさんが見るサイズになんとなく合わせてしまう。
僕としてはとんでもない大きさとか、とにかく驚かせてくれるようなものを期待していたのですが…。
展覧会なので…会場も広いし、でも、なかなかその〝概念〟から抜け出せない。

谷川
昨日僕パリから帰って来たんですけど、向こうで時間があったのでバスキア展を見に行ってたんですよ。

結論からいうとおもしろかったんですけど。
一つなんとなく分かったのが、あの独特のサイズなんですね。

ちょうどバスキアが活躍した時期っていうのが〝倉庫ハウス〟というか、金持ちが倉庫をリノベーションしてそこに客人を招いて夜な夜なみんなで遊ぶっていうのが流行った。
元は倉庫なので空間自体が広いんです、天井も高くて。
5mとかいう壁に、そこにストリート感があってパンチのある絵が欲しいってなった時、バスキアの絵がすごい良かったんですよね。
そういうスタイルが当時のニューヨークでも流行った。

それをバスキアが意図的に作っていたか、あるいは作らされていたかっていうのは今でもよく分からないけど、そこの要求には〝サイズ〟というものがあった。

そういう意味では、その人自身の立ち位置によって───つまり、どういうポジションで作品を制作しているのかということでクリエーションへのアプローチは変わるよなって。

​千原
サイズで背景が分かるというのは面白いですね。

谷川
そうそう。
やっぱりアートってコマーシャルとは違って〝増幅しない前提〟で作るものなんですよ。
一点ものとして。
その一点っていうのは、ルネッサンスの頃にしてもそうだけど、結局クライアントにしてみれば、要は「ここに飾る(描く)絵を描いてくれ」っていうオーダーですよね。

ヒロ
日本の絵は小さいわけですよね。
床の間に掛け軸───何しろ家が小さいのだから。

谷川
だから工芸とかああいうものが発達した。

伊藤
あと、日本にはあんまり〝絵を飾る〟という習慣がないですよね。

ヒロ
濃いマーケットがないことの一つに「絵を買って飾る」という習慣がないということ。
そして一番は絵を買う人たちの醍醐味って自分の家にお客さんを呼んで、買った絵をどれだけ喋るかっていうところですよね。
それがある種のステータスでもあるわけで。

谷川
実際、フランスのアートフェアを見に行ったら展示されているものがすごいんですよね。
ミケランジェロとかピカソとか普通に売っているし、もちろん値段なんてよく分からないくらいの数字がついているんだけど。
それらはもともとちゃんとコレクションされて、ちゃんと飾られていたもので。
コレクターが「絵を変えたい」って思った時に、部屋に飾っている絵を売って、それに相当する絵をまた買うという循環が土台にある。
作品を買って大事に仕舞っておくっていうのではなく、買った作品は飾る、そして掛け替えたいから売る、みたいな。
そういうマーケットがヨーロッパにはあるんですよ。

ヒロ
日本では〝アート〟という概念がね、〝贅沢〟っていう感覚になってしまって
「贅沢品に税金を使う」みたいなことも〝悪〟みたいな感じになっていますよね。

〈ヒロ杉山〉

ヒロ
イラストレーターって一つのスタイルを作らなきゃないけないんですよ。
それが認知されて初めて仕事がくるんですけど。
みんな焦って、インスタントなスタイルを作りがちで。

僕もそうだったんですけど、20代の頃ってとにかくはやく自分のスタイルが欲しい。
自分のタッチを開発してそれを世の中にデビューさせたいという願望がありますよね。
でも、インスタントでできたスタイルというものは脆いんですね
家と一緒で、土台がしっかりとあって、その上に構築したスタイルっていうのは10年20年もつくらい丈夫なんです。
土台がフラフラしている上に、一年くらいでポンと建てた家(スタイル)というのはやぱり長くは続かない。

で、その土台って何かというと、やっぱり枚数をたくさん描いていくこと。
死ぬほど描くんですよ。
300枚、400枚描いたところではじめて悩むんです。
で、また悩んで修正して、また300枚400枚描いて……

その描いている状態っていうのは、自分の中の毒素を出すような感じなんですよ。
最初の頃って「あれもしたい、これもしたい」というような色んな想いが入っていて、余計なことをやりがちなんですね。
それが描けば描くだけどんどん浄化されていって、クリアになっていく。
そうすると次第に自分の中にある芯みたいなものが出てくるんですよ。
この芯が自分のスタイルだと思えばいい。

その芯を取り出すには枚数を書くしかない。

テイストと隠し味

谷川
クリエイティブをやるにあたっては隠し味は大切だよね。
長くやっていると味になってくる。

伊藤
しつこいのが結構いいと思うんですよ。

谷川
継続性って大事だよね。
何でもそうだけど、続かないとものにならないからね。

伊藤
ヒロさんの話とセットで隠し味ってあることだと思うんですけど、土台があって隠し味が生きるというか。
隠し味そのものにはあまりそれほど意味はないんじゃないでしょうかね。

谷川
「この人に仕事を頼みたい」ってみんなに思わせるその人独特の空気みたいなものが隠し味なんだと思うよ。
自己で発信するんじゃなくて、周りが「この人のテイストこうだよね」っていう。
まさにテイストの部分が隠し味っていう表現の真意なんじゃないかな。
隠し味を作るってなると小手先の話になってきて。

要は時間が必要ですよね。
隠し味として確立されるまでに。

〈千原徹也〉

※塾生から「ご自身の隠し味は何だと思いますか?」という質問を受けて。

千原
僕はなんとなく手書きのスタイルだったと思います。
最初は菊地凛子さんのHPを作った時だった。
菊地さんのモードな写真がいっぱい送られてきて、その写真に対して手描きの絵を上から載せていったんですね。
モードって海外の人にとっては結構カッコイイんだけど、日本人からすると尖り過ぎた印象を与える。
それに絵を入れることで中和して菊地凛子さんっていう人がもう少し柔らかい人に感じるようなHPを作ったんですよ。

それをやってから〝写真に手描きのテイストを入れる人〟みたいな感じで、VOGUEとか装苑とか色んな雑誌から、「そういう感じでやってください」って言われるようになってきた。

谷川
デザイナーなんだけど、イラストレーターっぽい感じのポジションだったよね。

千原
最初ね。
だからイラストの仕事だけの時とかもあったりしたんですけど。
特にそういうテイストで売っていこうというわけでもなかったんですけど、だんだんそれが定着して、〝れもんらいふっぽい〟ってそういうこと、みたいな。

そう言われるようになりはじめて、逆にアイディア出しとかの時にスタッフたちと〝れもんらいふっぽい〟のってどっちだろうとかって。
その〝れもんらいふっぽさ〟が一つの隠し味かもしれない。
そこにみんが共感してくれるような方向にだんだん変わっていったっていう感じなので。


今紹介したのは講義のほんの一部。
好奇心をくすぐるような、そしてたくさんのヒントと発見のある濃密な時間だった。

話の内容だけでなく、それぞれの講師陣の話し方や仕草、〝息と間〟にも個性が現れる。
伊藤氏が「デザインの本質」(上記)について話した時の谷川氏と千原氏のやりとりが興味深かった。

谷川
それで言うと、〝勝手にサザンDAY〟ってさ今後の千原君の人生に多大な影響を与える出来事だよね。
代表作になるような…。

千原
そうですね。
それがデザインじゃないっていうwww

谷川
コミッションワーク(委託制作)じゃないもんね。
あれは完全にアートワーク(芸術作品)だもんね。

千原
ある意味デザインっていうものからどう派生していくのかっていうところを考えますよね。
勝手にサザンDAYもそうだし、このれもんらいふデザイン塾だったりだとか。
デザインだけじゃなくて、その先にあるものをどう作っていくのかっていいうことに興味がありますね。

デザイナーやアートディレクターが本来手を出さないことをすることによってパーソナリティとしての稀少性を高める千原氏の〝生き方としてのデザイン〟
生き方にもデザインの本質が現れるのだ。

塾生はあたかも自分で思いついたように答えを導き出す。
答えは聴き手の数だけ存在する。

そして交流会。
みんなでカレーを食べて、お酒を飲みながら、談話。
新しい発見で満ちた空間だった。

《ヒロ杉山》
86年、TOYO ART SCHOOL卒業後、湯村輝彦に師事し、その後独立。97年にアーティストユニット「Enlightenment(エンライトメント)」を設立し、世界中のアートシーンで名を馳せる。国内外の展覧会でファインアート作品を発表する一方、グラフィックデザイン、VJ、映像制作、ZINE、アートブックの出版、展覧会のキューレーションなど幅広く活躍。また、京都造形大学にて教鞭を執り、若手クリエイターの育成にも力を注ぐ。

《伊藤弘》
アートディレクター。デザイン・スタジオgroovisions代表。グラフィックやモーショングラフィックを中心に、音楽、出版、プロダクト、インテリア、ファッション、ウェブなど多様な領域で活動する。 活動を開始した93年、PIZZICATO FIVEのステージビジュアルなどにより注目を集める。 以降の主な活動として、CDのパッケージデザインやPVのアートディレクション、様々なブランドのVI・CI、『Metro min』誌などのアートディレクション、「ノースフェイス展」など展覧会でのアートディレクション、NHKスペシャル シリーズジャパンブランドや日テレ NEWS ZEROでのモーショングラフィック制作などがあげられる。

《谷川じゅんじ》
02年、空間クリエイティブカンパニー・JTQを設立。 “空間をメディアにしたメッセージの伝達”をテーマに、さまざまなイベント、エキシビション、インスタレーション、商空間開 発を手掛ける。独自の空間開発メソッド「スペースコンポーズ」を提唱、環境と状況の組み合わせによるエクスペリエンスデザイ ンは多方面から注目を集めている。2018年現在、MEDIA AMBITION TOKYOアーティスティックディレクター、東京ミッドタウン日比谷 LEXUS meets…“HIBIYA” プロデューサー等を務める。

≪塾長:千原徹也≫
デザインオフィス「株式会社れもんらいふ」代表。広告、ファッションブランディング、CDジャケット、装丁、雑誌エディトリアル、WEB、映像など、デザインするジャンルは様々。京都「れもんらいふデザイン塾」の開催、東京応援ロゴ「キストーキョー」デザインなどグラフィックの世界だけでなく活動の幅を広げている。
最近では「勝手にサザンDAY」の発案、運営などデザイン以外のプロジェクトも手掛ける。

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